給与のココが問題! Q&A
社長 | 給与の問題で相談に乗ってください。基本給が年功序列型になっていて、能力や実績を反映させることができず困っています。社員は数十人いますが、なかでも困っているのは社員A君の給与です。A君の先月の給与はこうです。 基本給35万円(本給30万円 加給5万円) 役職手当1万円 家族手当2万5000円 通勤手当5000円 時間外手当7万8000円 給与の総額46万8000円 A君は、係長です。勤務年数は20年で、50歳です。時間外が30時間あって、その時間外手当になりました。ちなみに当社は首都圏に本社がある製造業です。 |
---|---|
北見 | どれどれ、なるほど、これは困った問題ですね。仮に残業をしているとしても、給与の総額が46万円とは、ありえない給与の水準です。その46万円とは、どんな水準の給与かご存じですか? |
社長 | はあ? |
北見 | 「ズバリ! 実在賃金」によりますと、首都圏の「50歳 管理職 47万5000円」となっており、休日出勤も厭わない50代の管理職にして、ようやく手にしている給与です。それを係長が手にしてしまうと、課長との給与のバランスが取れないのではないですか? それにしても、高い基本給ですね。 |
社長 | その通りです。A君の上司の課長は、給与が総額で40万円ですから、給与がまったく逆転しています。給与の総額面で、社内のバランスが取れません。なぜ、こんな給与になってしまったのでしょうか? |
北見 | その原因は明白です。基本給です。このA氏の場合は、基本給および役職手当が時間外手当の算定基礎になる給与になります。それが36万円という額ですから、それをもとに時間外手当を計算したら、給与の総額面で上司の課長を抜いてしまいます。 |
社長 | ということは、A君の基本給が高過ぎるということですか? |
北見 | はい、そう言わざるをえません。「ズバリ! 実在賃金」によりますと、一般男性社員の所定内の給与は、40歳で30万4000円、50歳で31万4000円です。この所定内の給与には、基本給のほかに、家族手当や役職手当、皆勤手当などの諸手当が入っていて、時間外手当が入っていません。「50歳の一般社員」の基本給の相場は、諸手当が他にあることを想像しますと、30万円未満です。 |
社長 | ということは、A君の基本給は高いということですか? |
北見 | 基本給の相場よりも5万円以上高いです。 |
社長 | しかし、本人は基本給が低いから上げてくれ、と何度も頼んできていますが―。 |
北見 | そのA氏の働きぶりは? |
社長 | あくまでも一般社員のレベルです。言われたことはするのですが、それ以上は何もしようとしません。仕事が終わったらサッサと帰っていきます。あまり期待できない人材のレベルです。 |
北見 | それならば高過ぎます。この「相場よりも5万円以上高い基本給」というのは、給与の制度を作る上で大きな問題になります。それが時間外手当の計算の基礎にもなる給与だからです。 |
社長 | しかし、合点がいかないのは、当社の場合、ちゃんと有名な給与のコンサルタント会社の指導を受けて給与の制度を作ってきたのです。なぜ、こんな問題になってしまったのでしょうか? |
北見 | 貴社はひょっとして給与の表を使われていませんか? 本給・加給とかいう基本給の表を使っていませんか? 横軸が等級で、縦軸が号俸になっている基本給の表を使っていませんか? |
社長 | はい、使っています。これがその基本給の表です。SABCDの5段階評価で、Aは5号俸、Bは4号俸、Cは3号俸上がる仕組みになっています。 |
北見 | やっぱり、そうでしたか? 給与の制度の問題点は、この基本給の表にあるのです。これがいってみれば諸悪の根元です。 |
社長 | 諸悪の根元? |
北見 | はい、諸悪の根元です。 |
社長 | それはないでしょう。だって、この給与の制度を作ってくれたのは東京の有名な給与のコンサルタント会社ですよ。 |
北見 | 右肩上がりの昔の良い時代なら、役所じみた給与の制度でもやっていけたかもしれません。でも、イマドキは、そんな基本給の仕組みを採用していたら、とても経営できないでしょう。社長さん、この給与の制度、いつから使っていますか? |
社長 | 先代が20年以上前に指導を受けて導入した給与の制度です。 |
北見 | 考えてもみてください。それから世界が変わっていませんか? |
社長 | それはもちろん、変わったどころか、ガラッとすべてが変わってしまったでしょう。 |
北見 | それならば、昔の給与の制度になぜこだわるのですか? いってみれば、もう時代遅れです。 |
社長 | と、いいますと、シーラカンス? |
北見 | まあ、そんなところです。給与の制度の根本は、やはり基本給です。給与の制度の再構築をすることは避けられない課題ですが、それは“基本給の再構築”にほかなりません。 |
社長 | ショックですね。当社がこれまでに受けてきた給与の指導はいったい何だったのか? もう時代が変わったのですね。私も考え方を改めます。 |
- <給与の実践コンサルタント北見昌朗のホンネのつぶやき>
- 「公務員の世界の常識は、民間の非常識。だから親方日の丸の役所が行っていることを逆にしたら、経営になる。公務員の世界では、市役所で住民票を作っているヒラの職員でも、定年近くになれば基本給が40万円をはるかに超え、所定内の給与だけで50万円以上になる。そんなマネをしていたら、民間企業では成り立つ訳がない」