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「60代の給与」が議論の焦点へ!

国家公務員は基本給を0.7に減額して65歳定年へ

人事院は「国家公務員の定年を65歳に延長するのが望ましい」とする勧告を発表しました。(2018年8月)このように報道されています。

 「公務員65歳定年に 給与は3割減 人事院が意見書」(NHK)
 「60歳超の国家公務員『給与7割が妥当』人事院が意見」(朝日新聞)
 「国家公務員、給与3割減で定年延長」(時事通信)

この人事院勧告の内容と、それに対する北見昌朗のコメントです。

人事院勧告の詳しいポイントはこちら
民間の給与調査から“良いとこ取り”して作り上げた人事院勧告
所定内給与の減額率は0.75前後で月給40万円(賞与別)へ

横並びで決まる給与

日本の給与は、横並びで決まります。

国家公務員が変われば、地方公務員も準拠して変わります。

大手企業は、公務員の動きを見ながら、検討に入ります。T自動車あたりが給与改定の方針を決めると、N自動車、H自動車も追随します。すると電機各社も追っかけます。

大手の動きが出そろうと、次は中小企業が追随します。

北見昌朗の想像では、国家公務員の「基本給を0.7とし、家族手当などの諸手当は現役と同じ水準」という給与の方針は、いってみれば“60代の給与の上限”のような形になり、大手の60代の給与はそれよりも多少下になると予想します。中小の60代の給与はもちろん、その下です。そうなると、給与の減額率はざくっとこんな感じになるのではないでしょうか?

基本給
(A)
家族手当・
住宅手当等(B)
所定内給与
(A+B)
公務員 0.7 1.0 0.75
大手 0.7 0.7 0.7
中小 0.6 0.6 0.6

0.8の減額率を容認した長澤運輸事件

同一労働同一賃金を争点にした最高裁の判決が2018年6月1日に出ました。

 正規従業員 対 非正規従業員(ハマキョウレックス事件)
 正規従業員 対 定年後の再雇用従業員(長澤運輸事件)

この判決を一覧表にしました。

ハマキョウレックス事件 契約社員
賃金項目 1審 2審 最高裁
住宅手当
皆勤手当 ×
無事故手当 × ×
作業手当 × ×
給食手当 × ×
通勤手当 × × ×

長澤運輸事件 再雇用嘱託社員
賃金項目 1審 2審 最高裁
能率給 ×
職能給 ×
精勤手当 × ×
住宅手当 ×
家族手当 ×
役付手当 ×
超勤手当 × ×
賞与 ×

○…正社員と同条件で払う必要なし(不合理でない)
×…支払うべき(不合理である)

会社側は「厚生年金が支給されるまで調整手当を月額2万円支払う」とか「係数を現役よりも高く設定する」等々の配慮をしていて、その結果として「嘱託乗務員の賃金(年収)は、定年退職前の79%程度となることが想定されるものであった」ようです。

裁判所は、この減額幅を容認する判決を下しました。

裁判所が問題視したのは、むしろ手当の方でした。「賃金の不合理性は総額比較のみではなく、賃金項目の趣旨を個別に判断すべき」ということで、手当の支給の合理制を問題にしました。

60代に家族手当は不要なのか?

ハマキョウレックス事件において「非正規に住宅手当は不要」となっていますが、それは「正社員は全国転勤前提のため、住宅費補助の必要性があり。契約社員は全国転勤はないため、住宅費補助の必要性がなし」ということで、払う必要なしという判断に至りました。

もし、正社員に転勤の可能性がなければ、非正規にも「払う必要あり」という判断になることでしょう。

北見昌朗が最も違和感を抱いたのは、長澤運輸事件の「住宅手当・家族手当」の扱いです。判決を読むと「不合理ではないとする事情」はこう書かれています。

正社員には、嘱託社員と異なり、幅広い世代の労働者が存在し得るところ、そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる。
他方において、嘱託乗務員は、正社員として勤続した後に定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでは会社から調整給を支給されることとなっているものである」

しかしながら北見昌朗は、裁判官の判断に納得できません。

裁判官は、こんなイメージを持っているのではないでしょうか?
 「60代になれば子育てが終わって老夫婦になる」
 「住宅ローンも終わっている」
 「まもなく厚生年金を受給できる」
 「退職金をもらっている」

しかしながら、今日の世は昔風のライフスタイル観は馴染みません。60代も同様でしょう。仮に従業員なら、こう反論したくなるでしょう。
 「私は再婚したので、60歳だが3歳の子がいる」(結婚の3割が再婚です)
 「アパートを借りているので家賃を払っている」
 「厚生年金は65歳からしか支給されない」
 「中小企業では退職金なんて大してもらえない」

ちなみに、国家公務員の65歳定年制の計画では、家族手当や住宅手当は現役時代と同じ額を支給する方針です。

公的な制度が“重し”になって給与が低く抑えられた60代の給与

60代前半層の雇用を拡大することは厚生労働省の長年の目標でした。そのため、次のような公的な制度を整備してきました。

  1. 高年齢雇用継続基本給付金
  2. 特別支給の在職老齢年金

これらの制度は、現役時代に比べて60代の給与は低くなるものだという前提に立っています。

そこで結局のところ、民間企業は次のような点に留意して60代の給与を決めてきました。

  1. 現役時代と比べて給与総額(時間外手当含む。賞与含まず)を0.6以下にする。高年齢雇用継続基本給付金を沢山もらうためです。
  2. 給与総額(前一年間賞与を12等分した額を含む)の上限は28万円以下にする。特別支給の在職老齢年金を沢山もらうためです。

「同一労働同一賃金」への対応をめぐり焦点になる60代の給与

  1. 基本給の減額率は何%まで認められるのか?
  2. 家族手当を支給するのか?
  3. 住宅手当を支給するのか?
  4. 皆勤手当等を支給するのか?
  5. 所定内給与(基本給+諸手当)の減額率は何%まで認められるのか?
  6. 給与総額(時間外手当含む。賞与含まず)の減額率は何%まで認められるのか?

「同一労働同一賃金」に向けて待った無し

働き方改革の関連法案は、次の予定で施行されます。同一労働同一賃金は、2020年4月(中小は2021年4月)からです。

項目 2019年4月 2020年4月 2021年4月
残業時間の上限規制(大企業)
残業時間の上限規制(中小企業)
同一労働同一賃金(大企業)
同一労働同一賃金(中小企業)
年次有給休暇の5日間取得義務付け
高度プロフェッショナル制度

北見式賃金研究所の給与コンサルの方針

北見式賃金研究所は、この「同一労働同一賃金」という問題への対応に先手を打つ給与コンサルを実施します。

これまで中小企業の60代の給与制度は、「60歳定年で、それ以降は嘱託」という提案をしてきましたが、これからはニーズがあれば「65歳定年制」まで踏み込んだ提案をします。詳しくはココに掲載できませんが、次のような点に留意します。

60代の給与は「能力」によって決めるべきです。体力や気力、前向きさ、リーダーシップ等こそが重要です。単純に60歳になったからといって何%かの給与減額を行うのは逆に年齢による差別です。

北見昌朗に言わせれば、大事なのは「同一労働同一賃金」ではなくて「同一能力同一賃金」という考え方です。仮に同じ職場で、同じ労働をしていたとしても、60代であっても体力や気力、前向きさ、リーダーシップ等によって貢献度は天と地ほど違うからです。

会社は、定年という区切りを迎えたのだから、誰が何と言おうとも給与をいったんリセットすれば良いと思います。会社からの評価により、現役時代の給与にこだわらずに格付けすれば良い。現役時代の給与は次の理由により基準になりません。

  1. 59歳の給与は、年功序列の昇給の累積であり、もともと能力を反映していない。
  2. 60代は、体力・気力・前向きさ等の差が大き過ぎて、一律的な処遇をしにくい。
Q 60代の給与相場を知りたいが、データがありますか?

A 北見式賃金研究所は、毎年「ズバリ!実在賃金」という給与調査を行っています。その中には「5年以上継続勤務した従業員の給与」があります。それを見れば、60代の基本給は? 60代の所定内給与は? 時間外手当を含めた給与総額は? 年収は? 等々給与制度が一目瞭然になっています。

「65歳定年制」が10年後は一般的になる?

これは北見昌朗の個人的な予想ですが、10年後には「65歳定年制」が一般的な世の中になっている気がします。65歳定年制が普及すると考えるのは、次の理由からです。

①晩婚化
男性35歳、女性30歳という新婚カップルは、イマドキ珍しくない。そうなると出産年齢も上がるので、子育てが終わる年齢が上になってしまう。「60歳定年」では、子育てしにくい。

②人出不足対策
少子高齢化の中で、60代に、もうひと踏ん張りしてもらわないと国を維持できない。

③健康寿命の向上
「健康寿命の平均は70歳」だと聞いたことがあります。60代は、まだ元気であり、高齢者とは言えません。

④年金問題
現役世代の給与は、あまり上がっていません。そうした中で上がっているのは、厚生年金など公的年金制度の保険料率です。厚生年金などの年金制度は、財政事情が逼迫する一方ですが、これ以上の負担を現役世代に求めるのは困難です。そうなると、働き手を増やすほかありません。

60代の給与をどうするか? 国家的にも、会社にとっても、従業員とその家族にとっても大問題です。真剣な議論が待たれるところです。

2018年 北見式賃金研究所 北見昌朗