中日新聞(平成29年11月4日付)経済面に、北見昌朗のコメントが載りました。
残業代10兆円消える? 働き方改革 厳格適用なら
民間シンクタンクの「北見式賃金研究所」(名古屋市)は、政府の働き方改革関連法案による残業時間の制限が全労働者に厳格に適用された場合、全国で総額10兆円の残業代が減るとの試算をまとめた。北見昌朗所長は「多くの労働者にとって、残業代は給料の一部に組み込まれており、このままでは、働き方改革が家計を直撃することになる」と訴える。
労働基準法の改正案では、年間360時間以内とする残業規則について、違反した場合の罰則を設ける。月平均では30時間超の残業が対象となる。
国の2016年度の統計から同研究所が推計したところ、約2900万人のフルタイム労働者のうち、31%が月30時間超の残業をしていた。年収区分ごとの平均的な残業時間と、時間当たりの残業代を掛け合わせ、月30時間を超えた分の残業代を試算すると国全体では10兆円に達し、東北6県の労働者の給与総額を上回ったという。
改正案でも残業時間の上限は「臨時的に、特別の事情がある場合」に限り、労使の合意に基づき年間最大720時間まで伸ばせる。専門家には「ただちに全企業が年間360時間超の残業をできなくなるわけではない」との見方もある。
ただ、北見所長は「残業時間の延長はあくまで特例。法令を遵守すれば、かなり厳しい規制になる」と指摘。地方の中小企業に多くみられる年収300万~400万円台の男性労働者では、30時間超の残業をする割合が35~40%に達しており、残業代が減る影響は大きいとみている。
残業時間を減らしながら給与水準を維持するには、基本給を底上げするベースアップ(ベア)が必要になるが、大手企業と中小企業の給与水準は依然として開きが大きい。
北見所長は「働き方改革の方向性には賛同するが、中小企業の現状を変えなければ、働く人の年収が50万円も減るケースも考えられ、かえって不幸な結果を招くだろう」と話す。アベノミクスによる大企業の利益の増加分を取引価格の改善などで中小まで波及させなければ、働き方改革の成果は上がらないという。