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このままでは出す出す詐欺になる?
飲食店などの小規模企業を雇用調整助成金では救えない

北見式賃金研究所 北見昌朗 令和2年4月24日

飲食店などの小規模企業を雇用調整助成金では救えない

「医療崩壊」ならぬ「社労士事務所崩壊」も

北見昌朗

これは、社労士同士の会話である。

ある社労士は、溜息を吐きながら同業の社労士に尋ねた。
「ねえ、雇調金(こちょうきん)の申請手続きの代行増えてる?」

問われた側の社労士は、とんでもないと言わんばかりに手を左右に振った。
「そんなの増やせる訳ない。もの凄く煩雑な書類だから、ほんの数件受けるだけで、もう手一杯になる。お客さんからボンボン依頼の電話がかかってくるけど、とてもやりきれない」

「そうですよね。ただでさえ今は年中で一番忙しい時期。私なんて夜9時前に仕事が終わった日なんてない」

このように社労士事務所は、令和2年の4月、武漢ウイルス対応に振り回されている。助成金という特需に沸いてニンマリしているのではない。助成金の依頼に困り果てているのが実態だ。

「働き方改革」も、どこかへ行ってしまった労働局の現場

助成金を申請する側の社労士も大変だが、受理する側の労働局も大変である。

筆者が行く愛知労働局は、専用の相談コーナーを設けて、人員を増やして対応している。

しかし、電話するとまずつながらない。つながったとしても、電話に出るのは詳しい人でないので明確な受け答えをしてくれない。

相談のために訪問してみると、長蛇の列。ちなみに4月中旬の16時に行った際は、整理券を渡され「15番目です」と言われた。「何時頃ですか?」と尋ねると「わかりませんが、21時頃かも…」。

待合室では、近接して大勢が座っていた。

労働局の職員は、毎晩遅くまで働いているので疲弊している様子。とても「働き方改革」どころではない。

雇調金は労務担当者がいないと申請まで至らない

雇調金は雇用安定のために以前からある制度だが、それは昔なら紡績業界とか鉄鋼業界が活用したことが多かった。助成金を申請する際は、就業規則とか、36協定とか、労使協定とか、給与明細とか、山のような書類が必要になる。

何度も何度も労働局に足を運ぶことになるので、社内に担当者がいないと、実際にはやりきれない。

イメージとしては、一定の企業規模のある会社にふさわしい助成金だ。

担当者がいない小規模企業では、とても申請まで至らない。

小規模な飲食店の助成金は限りなく無理

武漢ウイルスのおかげで業績が落ちた業界は多いが、中でも飲食業界の落ち込みが酷い。問題は、その小規模な飲食店では雇調金の申請がやりにくいことだ。助成金は、労働局が支給するのだから当然コンプライアンスが必要になる。

例えば、従業員10人(アルバイトも含む)だったら就業規則の届出が必要だし、残業させるには36協定も必要になる。もちろん給与明細が整備されていることも前提となる。

だが、そんなことが小規模な飲食店で実際にできているだろうか?

例えば、ラーメン屋が1店舗あって、そこにアルバイト10人という店があったとする。そんな店で就業規則があるだろうか?

労基法遵守という点で基本すらできていなかったら、社労士はその助成金申請に二の足を踏まざるを得ない。

こんな訳で、小規模な飲食店の助成金は限りなく無理だと断言しても良い。

結果として、受給できた会社と、受給できなかった会社とに分かれるだろう。

言ってみれば「出す出す詐欺」みたいなものである。

現場知らずの官僚が頭の中だけで立案した結果がコレ

飲食店などの小規模企業を雇調金で救うのは現実的ではない、というのは社労士なら誰でも想像できる。労働局の現場の職員も、同感だと思う。

そもそも日本全国の会社が一斉に申請してきたら、少ない人数で物理的に対応できる訳がない。それなのに、なぜ雇調金を、中小企業の救済策として位置付けたのか?

それを立案したのは厚生労働省の官僚たちだ。彼らは現場をまったく知らないし、知ろうともしない。いつもこだわるのは「前例」であり「前例がありません」と言いながら保身を図ることしか考えない。

現場を知らない中央官僚が机上の空論を立案し、勉強不足の大臣を操って政策にする、という日本的な図式がまた垣間見える。

本来ならどうするべきだったのか?

批判ばかりしても仕方がないので、それでは本来ならどうすれば良かったのか自らの意見を述べる。筆者が大臣だったら、こうする。

社会保険料を一定期間タダにする。

消費税を一定期間タダにする。

これならば、申請という作業が必要ではないので、万人がメリットを一律に享受できる。

このような愚にもつかないような政策が現場を混乱させ、救済されない中小企業を生み出している。