このままでは「出す出す詐欺」になる! 雇用調整助成金
北見式賃金研究所 北見昌朗 令和2年4月25日
店主を困らせる、これだけのハードル
居酒屋で働く従業員は結局解雇されるほかないのか…
小規模な店は、いわゆる「総務担当者」がいません。ですから店主が全部やる必要があります。休業の助成金申請をしようとすると、こんなハードルに直面します。
ハードルその① 分厚い申請ガイドブック
助成金の申請は、まず役所のパンフレットを見るところから始まります。しかしながら、その書類はこんなにあるのです。もう、分厚さに驚き、見ただけでウンザリするのではないでしょうか?
ハードルその② そもそも単語がわからない
ガイドブックをパラパラとめくってみると、役所の専門用語だらけ。店主にとり、人生で初めて聞くような言葉の連続です。
例えば「休業って何?」「休業補償って何?」「平均賃金って何?」「労使協定って何?」など、そもそもわからないことだらけでしょう。もうチンプンカンプンというのが率直な気持ちだと思います。
ハードルその③ 書くのが苦手
こう申し上げては失礼かもしれませんが、店主の多くは「書く」ことが苦手だと思います。包丁を握ることは上手ですが、書くのは苦手という向きが多いのではないでしょうか?
その店主に難しい書類を書け、というのはリンチに等しいと思います。
ハードルその④ 社労士が助成金申請の依頼を受けられない
自分で申請するのを断念した店主は、次に社会保険労務士に委託することを考えるでしょう。小規模な店は、顧問料の問題もあり、社会保険労務士に委託しているところは少ないです。税理士ならば委託率が高いですが、社労士の委託率は低いのです。
しかしながら、社労士の側としても、受けたくとも受けられない事情があります。小規模な飲食店は、法定の資料が元々揃っていないところが多いです。添付資料は簡略化されたとはいえ、まだまだ随分あります。それらが整っていないと、社労士は申請したくともできないのです。
ハードルその⑤ コンプライアンスという名の店主泣かせ
助成金の窓口は、労働局ですから、当然のことながらコンプライアンスを求めてきます。でも、それは店主にとっては、まるで虐められているように感じるでしょう。例えばこんなふうに。
「出勤簿が要ると言われても、うちのようなタコ焼き屋では、そんなの付けていない」
「給与台帳と言われても、うちのようなライブハウスでは、そんなのない」
「アルバイトも含めて従業員が10人以上だから就業規則が必要と言われたって、うちのようなラーメン屋ではないよ」
「労働条件通知書がいると言われたって、うちのような理髪店では、そんなの出したことない」
「休業補償として平均賃金の6割を支払う義務があると言われても、そもそも何のことか? キャバレーのホステスにもそんな必要があるのか?」
「労使協定が要ると言われても、うちのようなナイトクラブでは誰と誰が結ぶのか?」
ハードルその⑥ コスパの低さ
小規模な店の場合、休業する人員も少ない。例えば「1人」が「1ヶ月間」休業したとするならば、それで得られる助成金の金額は知れている。労働局に何度も何度も足を運んで、ほんの数万円もらったところで意味がない。
手間が要する割に、助成金が少ないので、結局のところ意味がない。
結局、小規模な店は、申請そのものに至らないと思う。店主はこんな気持ちになるのではないか?
「どうせ政府は、うちらのような零細企業のことなんか何も考えてくれない」
「労働局の職員の顔を見たが、まるで出す気がないように感じた」
「新聞を読むと、こんなに支援策があると一杯載っているが、実際には貰えない。まるで『出す出す詐欺』にあったようなもんだ」
この提案が中日新聞に掲載されました
令和2年5月1日付 中日新聞社会面トップニュースは、北見昌朗の提案により実現。写真の「三ツ林」さんは北見昌朗が行っている店。「私が調理場に立たないと店が開けないので、書類を作ったり、労働局に行ったりする時間がない。申請方法を調べたが、正直言って、ちんぷんかんぷんだ」。北見昌朗の主張「申請の手間のかからない救済制度を作らなければ、いくら『助成金をだす』と言っても必要な人には届かない」。
本当は「出す出す詐欺」と言いたかったが、そこは載りませんでした。