中日新聞(平成29年10月18日付)<しごとの現場から>に、北見昌朗のコメントが載りました。
<しごとの現場から> 長時間労働の是正 中小企業、規制に苦渋
過労死や過労自殺の多発を受け、各政党が働き方改革の必要性を唱えている。長時間労働を是正する方向に政治が動いたことに、残業が恒常化している労働者からは期待の声も。一方、人手不足にあえぐ中小企業では厳しい規制に耐えられないとの意見も出ている。
愛知県内の物流会社で働く男性(50)の職場では、一年ほど前から週二日の休日をしっかり取れるようになった。その前に事業所の先輩が亡くなり、仲間内では過労が原因だと言われている。男性は「誰かが死なないと社会も会社も変わらないんですかね」と嘆いた。
人手不足が深刻化している物流業界。男性は毎日夜九時に出社し、翌朝八時に帰る勤務で、毎日二時間半、月五十時間ほどの残業が常態化している。事務仕事が中心だが、荷主の無理な要求に応えることも少なくない。「夜勤明けに京都まで荷物を届けたこともありました」と苦笑する。
安倍政権は残業時間の上限を「月四十五時間、年三百六十時間」などとする働き方改革関連法案をまとめた。繁忙期の例外規定や裁量労働制の拡大を盛り込んだため、労働組合からは「かえって長時間労働を助長する」との批判も上がる。
だが、この男性は「今まで放置されていた問題。大枠を決め、少しでも前進するなら意義がある」と前向きにとらえている。
北見式賃金研究所(名古屋市)が、愛知県内の中小メーカー二百社の男性社員五千人を対象に行った調査では、「年三百六十時間」の規制を上回る月三十時間以上の残業をする人が53%に達した。北見昌朗所長は「人を増やして一人当たりの労働時間を減らそうにも、人手を確保するのが難しい。働き手の側でも、残業代が減って困る人もいる」と中小の立場を代弁する。
愛知県内の食品メーカー経営者(60)は「大手が働き方改革を進めるほど、つくるのに手間が掛かる商品は下請けの私たち中小企業に押しつけられる」と語る。ここ数年で仕事量は増えたが、利益は目減りした。優秀な人材は大手がかき集めてしまい、熟練度の低い派遣社員らを製造ラインに投入せざるを得ない状況だ。
雇用問題に詳しい慶応大の鶴光太郎教授(雇用システム)は、長時間残業を規制する必要性を認めた上で「中小企業の事情を無視した十把ひとからげの対策は問題がある。やみくもに厳しい規制を設けるのではなく、例えば、中小企業に規制を適用する時期を遅らせるなど、会社の規模や業種ごとの実情に合わせたアプローチが必要だ」と話す。
(石原猛)