なぜだ? 有給休暇「買取」反対派の言い分と買取価格
プレジデントオンラインで、北見昌朗の執筆した記事が掲載されました。
『なぜだ? 有給休暇「買取」反対派の言い分と買取価格』です。
お読み下されば幸いです。
有休買取に8割が賛成している
安倍晋三首相は、サラリーマンの年収を増やすことに相変わらず躍起である。
その年収アップの1つの方法として、私が注目しているのは年次有給休暇(以下、有休)の買取の解禁だ。ヤフーが2013年11月に行ったアンケートでは、実に83%が買取に賛成した。ここまで賛成派が多いのならば、規制緩和の1つとして前向きに検討をすべきではなかろうか。そこで、賛否の意見を集めてみた。
まずは【買取賛成派】から。3人に聞いた。
「多忙で有休をろくに取得できないので、換金したい」(37歳・商社・男性)
「うちの会社は不平等があり過ぎる。私が所属する部は人手不足で有休がまるで消化できない。それなのに他の部は、きちんと全部消化できているという。同じ会社なのに、なぜ違いがあるのか? せめて年末にでも残った有休を買い取って清算して欲しい。その方が平等だ」
「夫をただ単に休ませる日はいらない。おカネがほしい」(46歳・専業主婦)
「うちの亭主(56歳・メーカー)ったら、嫌になってくる。最近、有休とかいって頻繁に休んで家にいる。家にいられたら、食事を作ることになる。これでは、私の時間がなくなるじゃないの! 家庭サービスといわれても、子供が成人すると、そんな必要はない。亭主元気で留守がいいと言うのだから、どうか毎日会社に行って欲しい。有休が残ったら、会社がそれを買い取って欲しい。それが妻としてのホンネです」
「有休をもっと社員の身近なものにすれば、欠勤率が下げられる」(58歳・経営者・男性)
「最近、うちの会社は出勤率が下がって困っている。従業員の間では『有休を取りにくい社風がある』とかで、病気を理由にして当日の朝ドタキャンで休む人がいる。いつも決まった人物で、必ず月に1日以上"病気"になる。翌日元気そうな顔で出社するのだから、どうみても仮病だろう。そんなドタキャンをされるぐらいなら前もって有休を申し出て頂いた方が会社の運営が楽だ」
少数派・買取反対の人々の言い分
一方、【買取反対派】はどう答えたのか。
「有休分のおカネより、夫の家事参加を望む」(32歳・パート・女性)
「最近、主人は有休を全然取ってくれません。会社が忙しいと言って、取らせてくれないのだとか。うちには小さな子供(3歳)がいて、私も働いているのだから育児を均等に分担してほしい。有休は労働者の権利なのだから全部堂々と使って、子供の面倒をみてほしい。有休をおカネで買い取るなんて案が認められたら、有休を取る人がますます減って、私のような立場の女性が苦しむことになる」
「有休を完全消化するのは当たり前です」(29歳・公務員・男性)
「私は市バスの運転手です。有休は入社と同時に20日与えられますが、これまでそれを全部消化してきました。勤務表は有休を全部消化するように組み込まれているので、全員が当年度に100%消化しています。それなら病気したらどうなるのかといえば、別に病気休暇という制度が別にある。もちろん給与付きです。有休をおカネで買い取るなんて案があるらしいけど、民間企業も、公務員と同じように100%消化すれば良いのです。買取の必要なんてありません」
以上、色々な立場に立って有休買取の是非を論じてみた。有休取得率(厚生労働省)を見ると、企業規模が1000人以上は56.5%、300~999人が47.1%、100~299人が44%、30~99人が42.2%となっており、大企業ほど取得率が高く、中小企業は低くなっている。
さて、そもそも法律的には有休買取は許されるのか。
月20日勤務で月収40万円なら有休1日分は2万円
最初に基本的なことをおさらいしよう。有休は勤務年数に応じて付与される。付与日数は、入社半年目で10日だが、徐々に増えていき、最高で20日になる。時効が2年間だから、それ以降は消滅してしまう。つまり捨ててしまうことになるのだ。
そして、有休の買取は、基本的に法律で禁止されている。なぜなら、有休は心身共にリフレッシュするのが本来の目的で、買取はその主旨にそぐわないと考えられているからだ。ただし、時効になった有休の買取は禁止されていない。また、退職時に残った有休の買取も禁じられていない。
条件付きで買取OKの場合があるのだ。では、買取はいくらぐらいが妥当なのか。
時効で消えた有休買取の場合、労働基準法は関係ないので、買取価格をいくらにするかは会社の自由だ。多くの会社のコンサルティングをしている私は個人的には「所定の日額」を設定すればいいのではないかと考えている。
給与の額は人それぞれだから単価は異なる。仮に勤務日数が月間20日間の会社があって、月額20万円の給与の人だったら1日1万円だ。同様に、月額40万円の給与なら1日2万円だ。このような単価設定にすれば、わかりやすいし、社員に不平等感も生まれないのではないか。つまり、後者の例でいえば、時効になった有休の日数が20日間だとすると、40万円がボーナス的な“臨時収入”となる計算になる。
仮に、買取が解禁されてもこの「日額」ベースで買取額を算出すればいいだろう。
繰り返すが、有休に対する意見やニーズは、立場によって異なるものだ。経営者側には、有休の取得率を上げる努力が求められるだろうが、それでも現実的には取得率は個人によって差が生じるもの。そこで、有休の買取を思い切って全面的に解禁し、休みが欲しい人には年休を与え、おカネが欲しい人にはおカネを与えた方が現実的だと私は考えている。
北見昌朗 きたみ・まさお
歴史に学ぶ賃金コンサルタント
名古屋の北見式賃金研究所長。これまでに就業規則を500社以上作成した経験から「労基法は昭和22年制定であり現代に合わない部分が多過ぎる」と持論。
http://www.syugyokisoku.net/