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「同一労働同一賃金」という政策の限界と会社の対応策

北見式賃金研究所 北見昌朗 平成30年8月

「同一労働同一賃金」という政策の限界と会社の対応策

ハマキョウレックス事件とは何だったのか?

2018年6月1日にハマキョウレックス事件の最高裁判決が出た。テーマは、正規従業員と非正規従業員との賃金格差だった。

最高裁は、争点になった諸手当の多くに関して「不合理である」として支払いを命じた。

北見昌朗は、この裁判に対して「運転手」という仕事に関する判決だと受け止めた。「運転手」という仕事は、正規がやっても、非正規がやっても、基本的に違いがない。まさに「同一労働」なのである。その上での判決である。

しかしながら、この判決が他の職種にそのまま波及するかと問われれば、答えはNOである。

日本では、賃金は年齢・勤務年数・職務能力等で決まる

一つの例を挙げて説明しよう。製造業のA社は求人中だった。担当する仕事は技能が必要なので、会社は長期的な考えで熟練工の育成を目指している。

A社は、応募者の中からBさんとCさんを雇い入れることに決めた。ともに未経験だった。Bさんは22歳で、Cさんは30歳だった。その初任給は、こうだった。

Bさんは、20万円
Cさんは、25万円

つまり、両者の間には5万円の開きがあった。このように年齢による格差があった場合に、他の従業員はどう思うだろうか?

「年齢が違うのだから、初任給が違うのは仕方がない」
という受け止め方が多いと思う。日本社会では、年齢は人を見る大きな要素だからだ。

なかには、
「年齢による差別だ」
という向きもいるだろうが、それは少数派だ。

似通った例をもう一つ出す。

Cさんは30歳で、その初任給は25万円だった。だが、その噂を聞いて心穏やかでない人(Dさん)がいた。Dさんは同じく30歳だったが、勤務年数は10年だった。それでいて、賃金が同じ25万円だった。Dさんは

「なぜ入ったばかりの人と同じ賃金なのか? 仕事の能力だって自分の方が上に決まっている」

と不満を漏らした。その愚痴を聞いた同僚はみな、同情した。

このように、日本では「勤務年数が違っている場合は、古い人が賃金が高いのは当たり前」という常識がある。

日本企業では、賃金は微妙なバランスで決まっている。その決定要素は、年齢・勤務年数・学歴・職種・職務能力・資格の有無等々である。それらを“総合的”に勘案して決められているのだ。

「同一労働をしているなら同一賃金であるべきだ」という主張は、現実にそぐわないので多くの会社にとって受け入れがたい。

それが受け入れられるとしたら、運転手のような職種に限定されるだろう。

基本給の比較は容易ではない

「日本企業では、賃金は微妙なバランスで決まっている。その決定要素は、年齢・勤務年数・学歴・職種・職務能力・資格の有無等々である。それらを“総合的”に勘案して決められている」と申し上げた。

そんな状況だから、基本給を比較した上で、その問題点を追求して立証するのは困難である。

例えば、3人の従業員がいたとする。

Aさんは、勤務年数20年、50歳、大卒。元課長で、今は一般従業員。基本給40万円。
Bさんは、勤務年数5年、40歳、高卒。一般従業員。基本給30万円。
Cさんは、勤務年数1年、25歳、大卒。一般従業員。基本給20万円。

3人は同じ職場で、同じ仕事をしていた。なかでもCさんは、自分の基本給に不満があった。「もっと自分の基本給は高くて良いはずだ」と考えている。だが、ここで考えて欲しい。ではCさんに対して

「では、あなたの基本給は本当ならいくらであるべきか?」
と質問したら、答えられるだろうか?

根拠を持って答えることは、困難である。

つまり基本給の高さを議論するのは実際には困難だということである。

比較できるのは手当だ

これに対して各種手当は、容易に判断できる。だから「同一労働同一賃金」の問題は主に「手当」の問題が中心になる。

正規従業員には皆勤手当、住宅手当、家族手当、無事故手当、食事手当、通勤手当等の手当があるのならば、同じような職務を同じ時間だけ行っている非正従業員に対しても支払わなければ、均等待遇に反する。

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